10年以上前の話。携帯でメールが送れるようになる前の話、それどころか、携帯電話って何ですか? というくらい、一般に普及していなかったころの話です。当時のメールって、手紙みたいなものでした。都合のいいときにメールを受信して、それに返信して、また都合のいいときにメールを送って。郵便と違って「トラックや船、飛行機で運ばれる時間」がなくなり、あっという間に届くことに興奮を覚えていたものです。ものすごく足の速い飛脚が手紙を届けてくれるようなものですね。別に飛脚じゃなくてもいいけど。黒猫でもいいや。なんだったら、魔女でもいいです、って、話が宅配便のことになっていきそうですが。

それに対して、チャットなんてのも当時からありました。電話ではなく、パソコンを使っての長話です。長電話ではなく、長(なが)パソコン。…うわあ、こんな名前だったら絶対に流行ってないわ。「チャット」なんてかわいい感じでよかった。…またちょっと話が脱線していきそうでしたが、チャットは同じ時間をみんなで共有することが、メールでのコミュニケーションと違うところです。

この「ネット上で同じ時間を共有する」ということが、最近気になっています。インスタントメッセージはけっこう身近になってるし、Skype のような音声のやりとりも増えている。あと、「セカンドライフ」もニュースで聞くようになりました。

「セカンドライフ」は、簡単に言えば自分の分身をバーチャルの世界につくって、バーチャルの世界を探検したり、バーチャルの買い物をしたり、ほかのバーチャルな人たちと会話をしたりするサービスです。最近では企業がこの「セカンドライフ」に乗り出し、販売促進に役立てようとしています。

ただ、いくらバーチャルでも、「セカンドライフ」に使う時間は1日24時間まで。これは別に、そういう決まりがあるわけじゃなくて、物理的に不可能ですからね。1日は24時間ですから。ずーっとパソコンの前にいられたとしても24時間です。実際は仕事や学校に行かなきゃならないし、なにより寝なくちゃ死んじゃいます。

かといって、そういうものに全く触れないで過ごすことも、ちょっと不安なんです。依存症というわけではなく、「セカンドライフ」のようなものに自分の身を置いておくことで、現実の世界では生まれないネットワークができるような気がして。かといって、これ以上ネットに分身をつくってどうする? 管理しきれるのか? という感じもするし。梅田望夫さんが「ウェブ進化論」で言っていた「こちらの世界」「あちらの世界」という表現を使わせてもらえば、「あちらの世界」と「こちらの世界」のバランスをどうするのか、考えたいところです。

【写真】銀河鉄道っぽい感じな夜

夜の鶴舞駅