「ちょっと聞きたいんだけど」「なに?」「歌声をマイクに乗せると響きすぎちゃうんだけど、これってどういうこと?」「あー、たぶんそれはね…」

「歌う時に、声を後ろから回すような感じにしてるでしょ?」「うん」「そうじゃなくてね、こう…何て言ったらいいかな…ラップの芯を口に当てていると思って、その筒になっているところに声を通す感じにするといいよ」「へー、そうなんだ」

「たぶんね、今、マイクの性能がいいから声楽のような発声をすると声が割れちゃうと思うのね。だから、発声練習をしっかりやってきた人ほど抑えめに歌った方がいいかもしれないんだ」「ふーん。で、その声はマイクに届ける感じ?」「いや、たぶん、マイクの向こう側に声を届ける感じの方がいいよ」

「どうして?」「そういうイメージでいないと、声が止まっちゃうから。そうなると、結局声がしっかりマイクに乗らないってことになっちゃうと思うんだ」「そうなんだあ。…あ、そうだ、そういえば、習ってる太極拳の先生にも似たようなことを言われてね…」

「何を言われたの?」「視線のこと。相手を見るんじゃなくて遠くを見ろって言われるんだけど、遠くの方を見たら、手前の焦点がぼけるじゃない?」「そうかなあ? ちょっとやってみるね。…こういう感じ?」「! そうそう、そんな感じ! え、なんでそんなに簡単にできるの?」

「うーん、これも声の出し方と同じ感じにやってるんだけど…ボク、声を出す時って、レーザービームのようにどこまでもまっすぐ出てるイメージにしてるのね。だから、遠くを見るって時も同じように、目からレーザービームが出てるようなイメージで、こんな感じに、こう、まっすぐに見ると…」「おお! ほんとだ!」「で、同じ視線でもレーザービームのイメージを短くすると…」「わ! ほんとだ! 違う! そういえば、体の動きでもそんなことを言われたなあ」

「どういうこと?」「簡単に言うと、手の先にも長い手がついているイメージを持って動かすようにしないと、簡単に折られちゃうんだよ。ほら、こうすると簡単に折れるけど、こうすると折られない」「わ! ほんとだ! いやー、声の出し方と太極拳の型に通じるものがあるとは思わなかったなあ…ねえ、でも、この話ってもともと、今年はモテたいねって話から始まったんじゃなかったっけ? この話をしてて興味を持つ女の子っているかなあ?」「いやー、いないだろうねえ…」「だよねえ…」

というような会話がありまして、女の子にはモテないということになりましたが、その代わりに発声と身体の動かし方についての関係性を解明することができました。めでたしめでたし…いや、めでたくないな。

こういう体の使い方、ボクは「身体意識を鍛える―閉じ込められた“カラダのちから”を呼び覚ます法」って本を参考にして身につけました。レーザービームのような、どこまでもまっすぐに伸びているものを操るって感覚って、声を使うのにも体を使うのにも大事かもしれないね。