久しぶりに、放送中に絶句した。まさかそんなことを言ってくるとは。

レギュラーでやっている番組の毎月第一金曜日のパートナーは、市民パーソナリティーの戸崎しょう子さん。毎週あるお悩み相談コーナーのお題は「話の筋道を立てて話すことが苦手です。どうしたらスムーズに話せますか」というもの。

戸崎さんは「まず最初に結論から言って、そのあとに理由を言って、最後にまた結論を言う」もしくは「練習する、場数を踏む」とのお答え。

ボクは「でも最初に結論から言うとハマるパターンもあるよね。『おもしろい話があってさー』っていうと、ハードルが上がっちゃう、ってやつ」と、ちょっと違う切り口で返す。

ここで終わっても十分オチになってるかな、大笑いにならなくても、クスリと笑ってもらえたらいいかな、くらいのつもりで言ったんだけど、戸崎さんは「そんなことないです! 最初に『おもしろい話があってさー』って言っても、おもしろい話ができます!」と、自信をもっておっしゃる。

そんなの、無理でしょ? 芸人さんだって、このハードルは越えられないもの。戸崎さんが、そんな方法を持ってるのか? 聞いてみた。

戸崎さん、実演を始めた。え、言葉で説明しないの? 実演するの?

自信満々の口調で言い始める。「おもしろい話があるんです〜……」そして、さらに自信たっぷりに、もったいぶるように、言うならば怪談で怖がらせるような口調で言い放った!

「尾〜も〜白〜い〜!!」

突然何を言い始めるんだこの人はそんな使い古されたシャレをよくこの状況でそんな大胆なことできるなわーこのあとどういう展開にしようどうするなんか言ったほうがいいかいやこれは嵐だ過ぎ去って落ち着くのを待つしかないか

久しぶりに放送中に絶句。その間に頭の中を駆け巡ったのは、上に書いたこと。およそ3秒のこの判断で「黙る」を選択し、数秒の沈黙。BGMがなかったら無音で放送事故になるくらい。

この世に人間が石化する呪文があるならば、今のやつだ。ひたすら黙る。ようやく嵐が過ぎ去り、太陽が顔を出してきたかという感覚になった頃に、少しずつしゃべりだす。冬眠の熊が目覚めるように。

「えー……戸崎さんにおかれましては……こうなってしまった空気を……なんとかしていただきたく……放送が始まって1時間10分……徐々にあったまってきた空気が……一気に冷えてしまって……できるならお一人で……また空気を暖めていただきたいと……」

トークにおける「空気が冷える」ってのは、それまでのリズムが壊れてしまうことなんだということが、身をもって分かった。

戸崎さん、本気でこれがおもしろいと思っていた。空気が冷えることのおもしろさではなく、このギャグがおもしろいのだ、と。だからあんなに自信たっぷりな言い方だったのか。

今まで言ってることとまったく逆なんだけど、これがおもしろい。これがいいのだ。この番組に、この要素がなくなったらいけないんだ。ボクが「その道筋では話は展開しないだろ」というルートを通ってくるおもしろさ。予定調和なものなんて、聞いていておもしろくないもの。たぶん、ボクが困れば困るほどいいんだ。

中途半端にしゃべりを学んでいる人よりも、ルールが分からないままの人の方がおもしろい。使い古されたシャレでインパクトを与えるのに、こんな方法があったとは。ボクもやって……みる気はまったくない。だって、怖いもの。トークの怖さ、知っちゃってるもの。

石化する呪文を唱えられ、言葉を発せなくなったボクが唯一考えていたのは「この場合、明石家さんまさんだったらどうするんだろう。神様、なんかいい返しをボクに降臨させてください!」ボクはまだまだ修行がたりない。