TOHOシネマズ名古屋ベイシティで「ノー・エスケープ 自由への国境」を観る。この作品に出ている犬に、賞を贈りたい。怖いんだ、これが。
メキシコとアメリカの国境地帯で、モイセス(ガエル・ガルシア・ベルナル)と仲間がアメリカに密入国しようと灼熱(しゃくねつ)の砂漠を歩き続けていた。突如何者かに次々と狙撃され、訳もわからぬまま逃げ惑う一行は銃撃だけでなく、摂氏50度の過酷な環境にも苦しめられる。水も武器も逃げ場もない絶望的な状況で、アメリカを目指す彼らの運命は……。
犬が怖い、犬が!
この作品で気をつけなければならないものは、襲撃者が飼っている犬である。すごいのよ、この犬が。
容赦なく獲物を追う。においを嗅ぎつけ、猛追し、襲いかかり、咬み殺す。その身体能力を見たら「こいつに目をつけられたらかなわない……」と、絶望的になる。
ホント、この犬、名演技。なんかの映画賞を取ってもいいんじゃないか、というくらい。トラックに飛び乗るアクションを見ただけで「うわ、この犬、できる……!」って思ったもの。
目をつけられたら確実に殺されるこの犬から、どう逃げるか。逃げきれる確率は低いけど、それでも逃げなければならない。そもそも、国境を不法に越えて来ているだけに、自分に全く非はないとは言えないのです。
不法移民の問題を知るきっかけに
では、襲撃者が100パーセント悪いかというと、ボクにはそうは見えなかった。好きで殺しているわけではない、とする演技が織り込まれていて、仕方なくやっているんだなあ、と思った。まあ、人を仕方なく殺すっていうのはあってはならないことだけど。
メキシコからアメリカに来る不法移民の問題。仕事を求めにくる彼や彼女たちのせいで、自分たちの仕事がなくなってしまう。
国境に接している地域では、この問題は身近なものだ。中央ではなかなか取り上げられない。そこに目を向けて「国境に壁を!」なんて言われたら「彼は俺たちのことを見てくれている!」って気持ちになるだろう。
この作品は、そういう問題があるんだということを知るきっかけになる。なんで国境を越えるの? なんで殺さなきゃならないの? ということへの深い理由は、この作品だけでは分からない。
主要な登場人物がみんな「本当はこんなこと、やりたくないんだけどなあ……」という気持ちがあるだけに、観ていて暗い気持ちになる。観終わっても、爽快になることはなかった。
そして、しばらくして。「あれ……? 今思い出してみたら、追いかけっこのあそこ、ドリフのコントみたいだったなあ」と。いや、あの時は襲撃者や犬が怖かったし、地形をうまくいかした演出だったんだよ。ボクはそのくらい、中に入り込んでいたんだ。
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